大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成8年(ワ)4225号 判決 1999年3月29日

原告

甲野太郎

(以下「原告甲野」という。)

原告

株式会社○○

(以下「原告会社」という。)

右代表者代表取締役

甲野太郎

右両名訴訟代理人弁護士

用松哲夫

上妻英一郎

右訴訟復代理人弁護士

小林行雄

被告

東京都

(以下「被告都」という。)

右代表者知事

青島幸男

右指定代理人

吉田宏彦

外三名

被告

乙山一郎

(以下「被告乙山」という。)

右訴訟代理人弁護士

高橋勝徳

福田恆二

新井弘治

主文

一  被告都は、原告甲野に対して金五〇〇万円、原告会社に対して金一二二六万一九〇〇円及びこれらに対する平成八年三月一六日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二〇分し、その一を被告都の、その余を原告らの各負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

ただし、被告都が、原告らに対し、合計金一二〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告甲野に対し、各自、金五〇〇万円及びこれに対する被告都については平成八年三月一六日から、被告乙山については同月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、原告会社に対し、各自、金三億一七八六万七一二九円及びこれに対する被告都については平成八年三月一六日から、被告乙山については同月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱の宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告甲野は、原告会社の代表取締役であり、原告会社は、原告甲野が昭和五八年四月一九日に設立した化粧品及び美容材料の販売を目的とする会社である。

被告乙山は、警察官であり、平成三年三月から平成六年八月まで被告都警視庁△△警察署刑事課捜査係巡査部長(平成五年一二月まで)及び警部補(平成六年一月から)として勤務し、平成四年三月からは暴力犯担当係であった。

2  原告会社は、資生堂等一流化粧品等の割引通信販売を業とし、平成三年二月からA化粧品の割引販売を開始し、同年一一月末からは千葉県内向けに七〇万部の折込ちらしを新聞に折り込んで配布し、大々的に販売するようになった。

ところがA化粧品を製造している株式会社A(以下「A社」という。)は、登録したアドバイザーによる対面販売を柱とする価格維持を方針としていたため、A社の取締役であり、A社及びその系列販売店(以下「Aグループ」という。)の総師である丙田二郎(以下「丙田」という。)は、原告会社の行っている割引通信販売を容認することができないとして、株式会社A化粧品千葉本舗(以下「千葉本舗」という。)の取締役丁川三郎(以下「三郎」という。)、その妻で千葉本舗の実質上の経営者である丁川花子(以下「花子」という。)及びAコーポレーション株式会社(以下「東京本舗」という。)の代表取締役戊谷四郎(以下「戊谷」という。なお、三郎、花子及び戊谷を総称して以下「三郎ら」という。)に対し、原告会社のA化粧品の仕入先を突き止め、その仕入先への出荷を停止して原告会社によるA化粧品の販売を不能にするように命じた。

そこで、花子は、平成三年一二月初め、原告甲野に架電し、同月末ころ、千葉本舗に同原告を招き、平成四年一月七日には、三郎と共に原告会社を訪問し、さらに、同月一一日、原告会社のA化粧品の卸先である上野のアメ横の小売店を原告甲野に案内させるなど同原告との接触を試みたが、結局、原告会社のA化粧品の仕入先を把握することができなかった。また、戊谷も、自ら顧客を装って原告会社にA化粧品の注文をして購入するなどしたが、結局、右仕入先を把握することはできなかった。

丙田は、この他にも、商品にロット番号を入れたり、商品の包装に傷を付けたりして商品の流通経路を把握しようとしたが、結局、右仕入先を把握することはできなかった。

3  そこで、丙田は、原告会社のA化粧品の仕入先を突き止めるためには警察権力を利用する以外に方法がないと考え、被告乙山に対し、原告甲野を逮捕し、家宅捜索を行って右仕入先名簿を押収するよう依頼した。

被告乙山は、いわゆるロス疑惑の捜査でロスアンゼルスに赴いた際、同地で日本向けのガン、ピストル等の雑誌を発行していた丙田の弟である丙田五郎(以下「五郎」という。)と知り合い、五郎から丙田を紹介されて、以後一〇年間にわたり丙田と親密に交際し、丙田から中元歳暮を送られる一方、A化粧品の販売に関する事件等について相談に乗るなどAグループの顧問的な役割を果たしていた。

被告乙山は、原告甲野の訪問販売等に関する法律違反で検挙することを検討したが、同法違反での検挙は不可能であった。

4  そのため、丙田は、三郎らに対し、原告甲野が三郎らと接触した際に補償金名下に金員を喝取しようとした、という虚偽の事実を被告乙山に申告して、被害届を提出するように命ずるとともに、被告乙山に対し、右事件を立件して捜査し、原告会社のA化粧品の仕入先名簿を押収するように依頼した。

そこで、三郎及び花子は、平成五年一〇月三〇日、警視庁△△警察署において、被告乙山に対し、平成四年一月五日、原告会社において、原告甲野からA化粧品の割引通信販売のちらしをまくのを止める代わりにちらし代相当の金員を要求されて脅迫された旨供述し、被告乙山は、その旨の被害届及び供述調書を作成した。

また、戊谷は、平成五年一〇月一二日、右警察署において、被告乙山に対し、平成四年一月二一日、原告甲野から電話があり、A化粧品の割引販売のちらしをまくのを止める代わりに休業補償金名下に暗に金員を要求されて脅迫された旨供述し、被告乙山は、その旨の被害届及び供述調書を作成した。

被告乙山は、右事件が二年近くも前の客観的証拠の得にくいものであり、その後当事者間に何のトラブルもなく、しかも、商取引上の自由競争の問題であって、もともと犯罪を構成するものではなく、警察の民事不介入の原則からも管轄警察署が正式に取り上げることはあり得ないことを知っていたため、管轄外の自らの所属する△△警察署の暴力犯係で扱うこととし、三郎及び戊谷の各被害届等に基づき、平成六年三月七日午前九時三五分ころ、事前の事情聴取をしないまま、職権を濫用して、原告甲野を三郎及び花子に対する恐喝未遂及び戊谷に対する脅迫の被疑事実で逮捕し、原告会社を捜索して同社の企業秘密である仕入先名簿を押収した。

原告甲野は、同月一〇日、三郎らに対する恐喝未遂の被疑事実で勾留されたが、同月一八日、不起訴処分となり、釈放された。

被告乙山は、取調べの際、他はともかくA化粧品の安売りは悪いことであると述べるなどAグループの代理人のような態度であった。また、釈放の際、原告甲野への押収物の返還と引き換えに、同原告に対し、押収できなかった原告会社のA化粧品の顧客リスト等を要求してこれを入手した。

被告乙山は、三月末ころ、右仕入先名簿及び右顧客リストを丙田に見せた。

丙田は、右仕入先名簿に記載されている業者へのA化粧品の出荷を停止し、原告会社によるA化粧品の販売を不能にしてその営業を妨害した。

5  以上のように、被告乙山は、職権濫用の故意により、又は通常なすべき捜査を怠って逮捕の理由及び必要性があると判断した過失により原告甲野を不当に逮捕した。

原告甲野は、被告乙山による不当な逮捕及びその後の留置の継続により、その身体、精神の自由を侵害された。右損害を慰謝するには五〇〇万円が相当である。

原告会社は、被告乙山が丙田に仕入先名簿を見せたことにより、又は被告乙山が丙田に仕入先名簿をのぞき見られるという過失によりその企業秘密である仕入先の情報を商売敵であるAグループに流され、仕入れが次第に不能になった。

A化粧品に関する平成五年四月から平成六年三月までの利益は、別紙一、二のとおりであり、増加額は一五五六万六九七四円(平成六年三月の利益―平成五年四月の利益)であるから、一か月毎の増加額は平均一四一万五一七九円(一五五六万六九七四円÷一一)となり、平成六年四月から平成七年三月までは三億六二六五万〇〇五〇円の利益が得られたはずなのに、実際は四四七八万二九二一円しか得られず、その差額である得べかりし利益三億一七八六万七一二九円の損害を受けた。

平成六年三月から平成九年二月までの得べかりし利益は、右額を超える。

6  よって、被告ら各自に対し、不法行為に基づく損害賠償として、原告甲野は五〇〇万円、原告会社は平成六年四月から平成七年三月までの得べかりし利益として又は平成六年三月から平成九年二月までの得べかりし利益の一部として三億一七八六万七一二九円及びこれらに対する被告都については訴状送達の日の翌日である平成八年三月一六日から、被告乙山については同様の日である同月一九日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否反論(被告ら)

1  請求原因1のうち、原告会社が化粧品及び美容材料の販売を目的とする会杜であることは知らないが、その余は認める。

同2のうち、花子が、平成三年一二月、原告甲野に架電したこと、原告甲野が、同月、千葉本舗を訪ねたこと、三郎及び花子が、平成四年一月五日(七日ではない。)、原告会社を訪問したことは認めるが、その余は知らない。

同3のうち、丙田が、原告会社のA化粧品の仕入先を突き止めるためには警察権力を利用する以外に方法がないと考えたことは知らないが、その余は否認する。

同4のうち、三郎が、平成五年一〇月三〇日、被害届を提出したこと、三郎の被害届及び三郎、花子の供述調書の内容、被告乙山が三郎から被害届の提出を受け、同人の供述調書を作成したこと、戊谷が、平成五年一〇月一二日、被害届を提出したこと、戊谷の被害届及び供述調書の内容、被告乙山が戊谷から被害届の提出を受け、同人の供述調書を作成したこと、原告甲野に対する被疑事実が逮捕時から約二年前のものであること、△△警察署において原告甲野に対する逮捕状及び原告会社の捜索差押許可状を請求し、その発付を得たこと、被告乙山らが、平成六年三月七日午前九時三五分、原告甲野を逮捕したこと、逮捕前に原告甲野から事情聴取をしていないこと、同日、原告会社の事務所を捜索し、仕入先を記載したノート等を押収したこと、原告甲野が勾留されたこと、原告甲野が同月一八日に釈放されたこと、原告甲野が不起訴処分になったこと(但し、起訴猶予である。)、被告乙山が原告甲野を取り調べたことは認め、丙田が、被告乙山に対し、三郎らが原告甲野に恐喝されたという虚偽の事実を事件として立件し、原告会社のA化粧品の仕入先名簿を押収するよう依頼したこと、被告乙山が、取調べの際、他はともかくA化粧品の安売りは悪いことだと述べるなどAグループの代理人のような態度であったこと、釈放の際、原告甲野への押収物の返還と引き換えに、同原告に対し、押収できなかった原告会社のA化粧品の顧客リスト等を要求してこれを入手したこと、同月末ころ、右仕入先名簿及び右顧客リストを丙田に見せたことは否認し、その余は知らない。

同5のうち、原告らの損害については知らない。

2  被告都

被告乙山は、平成五年九月末ないし一〇月初めころ、丙田から、東京と千葉でA化粧品の販売に関し脅されて困っている者がいる旨電話を受け、三郎らから事情聴取したところ、恐喝未遂あるいは脅迫の容疑があると思料されたので、上司の指揮監督の下、所要の捜査を行った。その結果、会員登録をした者だけに流通することになっているA化粧品を登録していない原告会社が大量に販売していること、原告会社は、業者宛ての葉書で、A化粧品の商品買取りを申し込んでいること及び原告会社の消費者向けのちらしには、「取扱商品の品質は各製造及び各販売メーカーの保証です。」「返品、交換はできません。」と記載されているなどが判明し、三郎らの供述内容に信憑性が認められたので、伊東豊治警部(以下「伊東警部」という。)が、刑事課長、副署長及び署長に報告し、その各指揮を受けた上で、逮捕状及び捜索差押許可状を請求し、その発付を得て、これらを執行したものである。

伊東警部らの右判断は、証拠の評価について通常考える個人差を考慮に入れても、なお行き過ぎで、経験則、論理則に照らし、当時の資料の下で常識上首肯し得ないほど合理性を欠く重大な過誤があるとは認められない。

被告乙山は、警視庁防犯部保安第一課に勤務していた昭和六〇年当時、五郎と面識を持ち、五郎から、兄である丙田が、福岡でビルを建設しようとしているが、暴力団の妨害に遭い、工事が停滞して困っている、との相談を受けたため、福岡県警察本部の暴力犯捜査係に連絡したところ、丙田から、ビルの建設工事が順調に進んでいる旨のお礼の電話を受けた。その後、丙田から何の連絡もなく、丙田と特別の関係にはない。

戊谷は、東京都内に居住している上、犯罪地も都内であるから、戊谷を被害者とする事件については、警視庁に管轄権がある。また、三郎及び花子を被害者とする事件については、三郎が、△△警察署に被害届を提出している上、戊谷を被害者とする事件と「関連事件」(刑訴法九条)であるから、△△警察署が捜査を行ったことに違法な点はない(警察法六一条)。

また、本件を暴力犯係が担当したのは、原告甲野の戊谷に対する「俺を誰だと思っているんだ。」との言動から、本件には暴力団が関与していると考えたからである。

本件被疑事実は、被害届の提出から約一年九か月前のものであるが、本件のように、当初、この程度のことでは警察は取り合ってくれないだろうと一人決めして被害届の提出を諦めていた場合等があり、珍しいことではない。

原告甲野は、本件被疑事件以後、当事者間に何のトラブルもなく、逮捕の必要性はなかったと主張するが、それは同原告の主観的な評価であって、三郎らは、その後も原告会社名の郵便物が送り続けられたり、原告甲野から電話を架けられるなどされ、不安な状態に置かれ続けていたと認識しているのであるから、逮捕の必要性がなかったということはできない。

原告会社からA商品の仕入先を記したノートを押収したのは、被疑事実の裏付けや、背景、動機等を明らかにするために必要があったからである。

また、被告乙山は、丙田に右ノートを見せたことはなく、原告甲野に対する処分が決定される以前である平成六年三月下旬、丙田と、原告甲野の余罪、すなわち三郎らのように原告甲野から脅迫されてA商品を原告会社に売っている可能性のある者について確認中、丙田に被告乙山が自ら作成したメモをのぞき見られたにすぎない。そして、丙田が得た情報は、丙田にとって何ら新しいものでも価値のあるものでもなかったので、被告乙山が右メモをのぞき見られたことをもって、国家賠償法上の違法性があるということはできない。

3  被告乙山

被告乙山は、被告都の公権力の行使に当たる公務員の職務の執行として、右逮捕及び捜索差押等を実施したものであるから、国家賠償法上、被告乙山個人が、直接、原告らに対する損害賠償責任を負うものではない。したがって、被告乙山に対する本訴請求はそれ自体失当である。

第三  証拠

本件記録中の証拠関係目録の記載を引用する。

理由

一  前提となる事実関係

証拠(甲一ないし四、六ないし九、一二ないし一九、三六ないし四〇、六五ないし六八、七〇ないし七二、七五の一、乙一ないし八、一四の一部、原告本人、被告乙山本人の一部)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  原告会社とA社の関係

(一)  原告会社は、原告甲野が化粧品及び美容材料の販売を目的として昭和五八年四月一九日に設立した会社であり、設立以来、新聞の折込広告を宣伝媒体とし、通信販売の方法によりコストを削減することで、資生堂等一流化粧品を市価の約一四パーセントから四五パーセント引きで割引販売を行い、平成四年二月末日時点の年商は約三億七三〇〇万円(粗利益約一四パーセント)であった。

原告会社は、取扱化粧品のメーカー及びその系列店とは専属契約を結ばず、商品を持っている系列業者に対して商品を買い取る旨のダイレクトメールを送り、これに応じて売買を申し込んできた業者から商品を仕入れていた。

原告会社は、平成三年二月ころからA化粧品の割引販売を開始し、同年一一月末には千葉県内向けに七〇万部の折込広告を新聞に折り込んで配布し、大々的に販売するようになった。平成四年一月当時、原告会社のA化粧品の仕入先は約二〇名存在した。

原告会社は、A化粧品の取扱業者に対しても、「化粧品高価買入れます。」と記載されたダイレクトメールを送付しており、これは、原告甲野と三郎らが接触した後も続いた。

(二)  他方、A化粧品は、A社が製造して各県の販売総代理店であるA化粧品の地区本舗へ卸し、そこから各本舗に登録された販売会社、営業所、フィールドマネージャー、アドバイザーに卸し、右アドバイザーが、消費者に対し、定価により直接対面販売を行うというシステムが採られており、契約上、右登録を経ていない業者に商品を流すこと及び通信販売は禁止され、違反した場合には、契約が解除され、商品の供給が停止される旨定められていた。

右システムからすると、登録を経ずにAグループ傘下の業者から秘密裡にA化粧品を仕入れ、割引通信販売を行う原告会社は、Aグループにとって単なる商売敵というだけでなく、その経営方針に真っ向から対立する存在であり、Aグループとしては、原告会社によるA化粧品の販売を中止させなければ自社の利益が損なわれる状況にあった。

(三)  そのため、A化粧品を開発し、A社の取締役としてAグループを取り仕切っていた丙田は、Aグループの千葉県の販売総代理店である千葉本舗の取締役三郎、三郎の妻で千葉本舗の実質上の経営者である花子及びAグループの東京都、神奈川県の販売総代理店である東京本舗の代表取締役戊谷に対し、各本舗傘下の業者の中でAグループの経営方針に違反して原告会社へA化粧品を卸している者が存在することの責任を追及するとともに、その業者を突き止め、そこへの商品の供給を停止して、原告会社によるA化粧品の販売を不能にするよう命じた。

(四)  花子は、原告会社のA化粧品の仕入先を突き止めるため、原告甲野への接触を試み、平成三年一二月初旬、原告会社に架電したのを手始めに、同月末頃、原告甲野を千葉本舗に招いた。

この際、花子は、原告甲野に対し、東京本舗やA埼玉本舗株式会社(以下「埼玉本舗」という。)から、千葉本舗から商品が流れているのではないかと疑われて困っているので、仕入先を教えて欲しいと尋ねたが、原告甲野は、企業秘密として返答を拒絶し、ただ、千葉本舗傘下の業者からの仕入れはないので、その旨東京本舗や埼玉本舗に事実を説明してもよいと答えた。それに対し、花子は、現在はなくても今後千葉本舗傘下の業者から商品が流れることになったら困ると言ったところ、原告甲野は、それなら共同でA化粧品を取り扱う新会社を設立し、同会社に千葉本舗が納品するなら問題がなくなるのではないかなどと答えた。花子は、原告甲野から仕入先を聞き出すために、原告の右提案を直ちに拒絶することなく、関心があるかのような素振りを示した。花子は、原告甲野に対し、ちらし代金を尋ねると、原告甲野は、二、三〇〇万円位と答えた。花子は、原告会社のちらしのA化粧品の写真について意見を言い、もっと良いものがあると言って、千葉本舗にあった写真(パンフレット)を原告甲野に渡した。

花子は、仕入先を聞き出すために、表面的には友好的な関係を築く必要があったため、原告甲野に対し、割引販売の中止を求めることはせず、逆に、安売りは自由であり、傘下の業者には原告会社に負けないような営業努力をするよう求めていると述べた。その後、花子は、何とか原告甲野から仕入先を聞き出すため、馴染みの鴨亭という料理屋で原告甲野を接待したが、結局、仕入先を聞き出すことはできなかった。

その後、花子は、右原告甲野とのやりとりを戊谷に報告した。

(五)  花子及び三郎は、平成四年一月七日、原告会社のA化粧品の仕入先の調査のため、原告会社を訪問した。花子は、原告会社にA化粧品が納品されているのを見て、原告甲野にその仕入先を尋ねたが、やはり返答を拒否された。原告甲野は、先日鴨亭で接待を受けた返礼として、すし勝という馴染みの寿司屋で両名を供応した。すし勝では、原告甲野の妻と中学生の娘も共に会食し、この際、花子は、仕入先を探知するため、原告甲野に対し、原告会社の卸先であるアメ横の店を見学することを希望し、原告甲野も、これを応諾した。

原告甲野及び花子は、同月一一日、アメ横の原告会社の卸先販売店を見学し、その後、浅草見物をして飲食を共にした。

原告甲野は、同年三月七日家族と鴨亭で会食をする際、花子を招待したが、花子は、遠慮し、会食の終わるころ挨拶に現われて、帰りのタクシーを手配した。

原告甲野は、その後、花子に対し、二回ほど架電した。

花子は、戊谷に対し、右のように努力をしたが、原告会社の仕入先を突き止められなかったと報告した。

(六)  戊谷は、傘下の販売会社に原告会社の仕入先の調査を命じたり、自ら顧客を装ってA化粧品を注文するなどしたが、結局、原告会社の仕入先を突き止められなかった。

原告甲野は、平成四年一月二一日、花子が、埼玉本舗や東京本舗から疑われて困っていると言っていたので、仕入先は千葉本舗ないしはその傘下の業者ではないことを説明するため、東京本舗の戊谷に架電した。原告甲野が「○○の甲野です。」と名乗ったところ、戊谷がいきなり「もっとまっとうな商売をしろ。」と怒鳴りつけたため、あとは口論となった。その後、原告甲野は、戊谷に接触したことはない。

(七)  丙田は、この他にも、商品に流通ロット番号を入れたり、商品の包装に傷を付けたり、原告会社の前に人を張り込ませて、配達されてきた荷物の出荷人の名前を確かめさせるなどして商品の流通経路を把握しようとしたが、結局、仕入先を突き止めることはできず、原告会社によるA化粧品の販売を中止させることはできなかった。

2  捜査の端緒及び経緯

(一)  本件捜査の端緒は、平成五年一〇月初めころ、丙田が、被告乙山に対し、東京と千葉でA化粧品に関し脅迫されて困っている者がいる旨架電したことによる。ところで、被告乙山がその当時所属していた警視庁△△警察署の本来の管轄区域は江戸川区の一部であるのに対し、被害者と目される戊谷の住所は世田谷区、犯罪の被害地は目黒区、三郎及び花子の住所及び犯罪の被害地は千葉であるから、右脅迫事件は、本来同署の所轄事件ではなく、かつ、事件発生から既に一年九か月が経過していたのに、被告乙山は、自らこれを担当することとし、丙田に対し、事情聴取のため、被害者を同署に差し向けるよう指示した。

(二)  被告乙山は、平成五年一〇月上旬、戊谷及び埼玉本舗の実質的な代表者であった専務取締役乙原六郎(以下「乙原」という。)から事情聴取した。

戊谷は、被告乙山に対し、平成四年一月ころ、原告甲野から電話があり、「A化粧品の安売りの広告を出すが、何か言いたいことはあるか。黙ってちらしを出すのもなんだから、一応連絡した。ちらしを出して欲しくないのであれば、休業補償を出してくれ。こちらは相当の金を出しているんだ。」などと言われたので、「もっともまともな仕事をしてほしい。」と言い返したところ、原告甲野から「何だと、この野郎、俺を誰だと思っているんだ。」と言われて脅されたこと、右電話についてはダイアリーに記録してあるので、それを見れば、電話があった日を特定できること等を供述した。

被告乙山は、原告甲野が戊谷に接触したのは右一回の架電のみであり、その後は全く接触がなかったことを聴取していたのに、平成五年一〇月一二日、戊谷の供述録取書を作成するとともに、被害届を代筆した。

右被害届には、被害の年月日時として「平成四年一月二一日午後一時〇〇分ころ」、被害の場所として「東京都目黒区下目黒<番地略>所在、雅叙園観光ホテル内、A・コーポレーション株式会社内」、被害の模様として「私は、A・コーポレーション株式会社の代表取締役をしていますが、一月二一日午後一時〇〇分ころ、電話で○○の甲野という男から電話で『今月末から、東京、神奈川、埼玉を中心にちらし二五万枚を三回配布する、安くインターから入れたものを一〇〇%で売るのが気に入らない、埼玉本舗にも電話したが、不在だった、千葉本舗と話して条件を出した。東京本舗として何かいいたいことがあるか、ちらしを出してほしくなければ、休業補償が必要だ、俺を誰だと思っているんだ、条件を飲め。』等と暗に金を要求されるような脅かしをうけ、脅迫されました。詳しくは調書で申し上げます。」との記載がある。

戊谷の供述録取書には、右被害事実から被害届を提出するまでの約一年九か月間、原告甲野から何の接触もなかった事実は記載されていない。また、被告乙山は、戊谷の供述の裏付けとなるダイアリーを証拠として保全しなかった。

乙原は、被告乙山に対し、「自分が会社を留守にしている間、原告甲野から会社に度々電話があったほか、原告会社からA化粧品を買い取る旨記載されたパンフレットや葉書等が来ている。」と供述した。被告乙山は、原告甲野の乙原又は埼玉本舗に対する行為は、脅迫的言辞がないことから犯罪を構成しないが、右パンフレットや葉書等の内容が戊谷に対する原告甲野の行為を裏付ける可能性もあると考え、乙原に対し、その旨伝えるとともに、右パンフレットや葉書等を持参するよう求めた。

(三)  被告乙山は、一〇月中旬、花子から事情聴取した。花子は、被告乙山に対し、平成四年一月ころ、三郎と共に原告会社を訪れた際、原告甲野から、「A化粧品を回せ。A化粧品を回さないのであれば、ちらし代三〇〇万円を補償して欲しい。」などと脅された旨供述した。被告乙山は、現場にいた三郎からも事情聴取する必要があると考え、花子に対し、次回、三郎と共に来署するよう指示した。

被告乙山は、同月三〇日、三郎及び花子から事情聴取を行い、被告乙山が三郎の、司法警察員武井昭一(以下「武井」という。)が花子の各供述録取書を作成し、被告乙山が三郎の被害届を代筆した。

右被害届には、被害の年月日時として「平成四年一月五日午後四時〇〇分ころ」、被害の場所として「千葉県市川市塩浜<番地略>株式会社○○事務室(甲野太郎方)」、被害の模様として「私は株式会社A化粧品千葉本舗の取締役をしていますが、私の妻花子と二人で、甲野太郎が経営している株式会社○○事務室に行った時、甲野に『A化粧品を俺のところに回せ、ちらしを作るのに三〇〇万円かかっている、他のメーカーでは、このようなとき、ちらしを出さない代りに、商品を回すか、ちらし代を黙って出す、どうするんだ、回すのか回さないのか、はっきりしろ。』と怒られ脅かされています。詳しくは調書で申し上げます。」との記載がある。

三郎の供述録取書には、被害届記載の事実の後、すし勝に行った事実は記載されておらず、かえって、原告甲野が、「ちらし代に三〇〇万円もかかっている、Aの商品を提供するのかしないのか、返事をしろ。」と言って詰めよるだけで話にならないので、自分達は家に帰った旨記載されている。

花子の供述録取書には、原告甲野を千葉本舗に招いたとき及びその後鴨亭で食事をしたときに脅されたこと、その後原告甲野と会うことはなかったが、約二年間にわたり月二回くらいの割合で原告甲野から電話があり、最後に、平成五年八月ないし九月ころ、電話で、商品を回すのかどうか返答を求められて花子がこれを拒否したところ、原告甲野から「ちらしをまく。」と言われたので、花子が「優しい恐喝ですね。」と述べたことが記載された後、最後に、「前後しますが」として、三郎の被害届記載の事実、すなわち三郎と共に原告会社を訪問したときに脅された、との事実が付け足すように記載されている。花子は、被告乙山及び武井に対し、原告甲野と合計四回会い、そのうち三回は飲食を共にして長時間同道していることを供述しているが、その旨は鴨亭を除いて供述録取書には全く記載されていない。

(四)  被告乙山は、原告会社とAグループは商売敵の関係にあり、原告甲野と三郎らとの接触の実態は、両者間の虚々実々のかけひきであり、これを犯罪行為と評価するについては不自然な点や無理な点が数多くあったにもかかわらず、反対当事者である原告甲野から全く事情を聴取しなかったばかりか、動機の解明には必須と考えられる原告会社の経営状況やA化粧品の仕入状況等の裏付捜査を全く実施することなく、平成六年三月七日午前九時三五分、原告甲野を逮捕するとともに、原告会社を捜索し、仕入伝票、納品伝票等の書類及びA化粧品の仕入先を記載したノート(甲一六)を押収した。この際、被告乙山は、原告甲野に対し、A化粧品の顧客名簿を提出するよう要求し、直ちに入手し得ないことが判明するや、後日提出するよう指示した。

(五)  原告甲野は、同月一〇日、代用監獄警視庁△△警察留置場に勾留された。

原告甲野は、終始容疑を否認し、被告乙山に対し、三郎らとの前叙の接触状況を詳細に説明して濡れ衣であることを訴えた。被告乙山は、右取調べの際、原告甲野に対し、「他のメーカーの化粧品は別として、A化粧品に関しては、正規に販売している者が迷惑するから、安売りは悪いことである。」と発言した。被告乙山は、原告甲野が否認していたにもかかわらず、勾留中一回しか取調べを行わず、被害者である三郎らから再度事情を聴取して、矛盾点を質し、容疑を裏付けるための捜査を行わなかった。

担当検察官は、原告甲野を取り調べた後、被告乙山に対し、起訴は無理だから被害届を取り下げさせるよう指示し、この結果、戊谷は、同月一八日、被害届を取り下げた。

原告甲野は、同日、勾留期間満了のため処分保留のまま釈放された。この際、被告乙山は、原告甲野に対し、原告会社のA化粧品の顧客名簿を要求した。

原告甲野は、同月二一日、押収物の還付を受けるとともに、右要求に従い、顧客名簿を任意提出した。原告甲野は、同月三〇日、起訴猶予処分を受けた。

本件捜査に実質的に関与したのは被告乙山一人であり、直接の上司である伊東警部以下△△署の幹部が本件捜査を実質的に指揮監督した形跡はない。

3  丙田と被告乙山の関係

(一)  被告乙山は、警視庁防犯部保安第一課に在勤中の昭和六〇年ころ、五郎と面識を持ち、その後まもなく、同人から、兄である丙田が、福岡におけるビル建設に関し暴力団の妨害に遭い困っている、と相談され、福岡県警察本部の暴力犯担当係と連絡を付けることで右トラブルの解決に助力したため、丙田から感謝された。被告乙山と丙田は、以後、年賀状のやりとりを行っていた。

(二)  丙田は、その約八年後の平成五年一〇月初めころ、被告乙山が△△警察署で勤務していることを知っており、同署にいた被告乙山に架電し、これが本件捜査の端緒となった。

(三)  原告甲野が逮捕された平成六年三月七日の直後である同月中旬、A社発行のAリポート三月号(甲八)に、緊急ニュースとして、「○○の責任者が、三月七日にAグループ恐喝の疑いで、警視庁△△警察署刑事課暴力団係の手で逮捕、勾留されました。」との記事が掲載され、各本舗に送付された。右逮捕の事実が一般の日刊新聞紙上に掲載された形跡はない。

(四)  丙田は、原告甲野が釈放された後である三月末ころ、関東で講演があったついでに、事件を処理したお礼を言うため△△警察署を訪れ、被告乙山と面会した。その際、被告乙山は、丙田に対し、原告会社のA化粧品の仕入先に関し自己の作成したメモを交付した。

その後、被告乙山が余罪捜査をした形跡はない。

(五)  その後、Aグループの会報(甲一七)に、「製品を乱売していた○○の代表者は警察の暴力団係に逮捕されましたが、銀行の振込口座からバッタ屋に流した人は全部警察の力で判明致しました。」という記事が掲載された。

また、「○○へ横流しした者リスト」と題する書面(甲一五)がAグループ内に配布されたが、右書面は、全て本件において押収された原告会社の仕入先ノート(甲一六)と同内容である上、若干の例外を除き、ほぼ甲一六に記載のある順番通りに記載されている。

右リストがAグループ内に配布された後、右リストに記載された業者の一部については、平成六年四月以降出荷停止の措置が採られた。

被告乙山は、平成六年六月一三日ころ、原告甲野に対して架電し、暗に損害賠償請求の訴訟を提起しないよう示唆した。

二  被告都の責任

原告甲野の不起訴処分の理由は起訴猶予であったこと、逮捕状及び捜索差押許可状の請求に当たっては、上司の決裁が必要であり、捜査権限を私的利益を図るために濫用することは、極力抑止されるべきものとされていることは、被告都が主張するとおりである。

しかしながら、原告甲野が犯したとされる罪の事実関係は、前記一1で認定したとおりであり、原告甲野と三郎らとの接触、やりとりの実態は、商売敵の関係にあった原告会社とAグループ間の虚々実々のかけひきの一コマにすぎず、これをもって恐喝ないしは脅迫と評価するには不自然な点や無理な点が数多くあったこと、それにもかかわらず、被告乙山は、被害者と目される者の供述のうちの一部分のみを取り上げて被害事実を組成し、反対当事者である原告甲野の言い分も聞かずにいきなり強制捜査に着手したこと、本件捜査は、その端緒及び経過にかんがみても異例づくめであり、本来なされるべき裏付捜査が全くと言っていいほど行われていないこと、前記一3認定の事実に照らせば、被告乙山と丙田との間には、警察官と市井の一私人という関係を超えた特殊な結びつきがあったと推認するほかなく、本件捜査は、丙田の意向を受けて、原告会社のA商品の販売活動を阻止することを目的として、より具体的には、原告会社のA化粧品の仕入先リスト又は顧客名簿を押収するためになされたと理解することによってのみ、本件捜査の異常性を矛盾なく説明することができること(そうでなければ、何故かような異例づくめの捜査が行われたのかを解明することはできない。)、逮捕状及び捜索差押許可状の請求に当たり、上司の決裁を得なければならないことは制度上は当然であるとしても、本件捜査においては、被告乙山の意向がそのまま通ったと推認されること(被告乙山の直接の上司に当たる伊東警部以下の警察幹部の指揮監督が形式的なものにすぎなかったことは前記一2(五)のとおり)に照らせば、被告乙山は、丙田すなわちA社の利益を図る目的で捜査権限を濫用し、違法に、原告甲野を逮捕し、かつ、原告会社を捜索して右仕入先リストを差し押さえたと認められる。

三  被告乙山の責任

右のような被告乙山の捜査権限の濫用が、国賠法一条一項の「公権力の行使に当たる被告都の公務員が、その職務を行うについて、故意により違法に他人に損害を与えた場合」に該当することは明らかであるが、公務員個人は、故意があった場合においても、賠償の責めを負わないとすることが最高裁の確定判例となっているから、被告乙山には賠償責任はない。

四  原告甲野の損害

被告乙山の行為は、刑法一九四条に該当する犯罪行為であり、この結果、原告甲野は、逮捕勾留期間を通じて一二日間も違法に身柄を拘束されたこと、被告らは本訴においても終始自分達の行為の正当性を主張し、自己の非を認めないことに照らし、慰謝料の額は五〇〇万円が相当と認める。

五  原告会社の損害

1  証拠(甲七五、七六、七九ないし一〇二)によれば、原告会社の平成三年度から平成八年度までの決算は、次のとおりである。

平成三年度(平成三年三月一日から平成四年二月二九日まで)

項目(以下記号のみを表示する)単位万円(以下同じ)

①  総売上高A 三億七三〇五 うちA化粧品分B 不明 B/A 不明

②  総仕入高C 三億二七六九 うちA化粧品分D 三五四九 D/C 10.8%

③  粗利益 E 五一四九

④  営業利益F 五三三

⑤  経常利益G 一六五

⑥  総仕入高経常利益率(G/C) 0.5%

平成四年度(平成四年三月一日から平成五年二月二八日まで)

①  A 六億五五〇八

B 不明 B/A 不明

②  C 五億七二九八

D 一億五八六六 D/C 27.6%

③  E 一億二六二五

④  F 一六六二

⑤  G 七〇九

⑥  G/C 1.2%

平成五年度(平成五年三月一日から平成六年二月二八日まで)

①  A 一六億三三三三

B 七億八一五八 B/A 47.8%

②  C 一四億一〇〇二

D 六億三六八四 D/C 45.1%

③  E 二億七一二六

④  F 七〇〇二

⑤  G 六七二二

⑥  G/C 4.7%

平成六年度(平成六年三月一日から平成七年二月二八日まで)

①  A 二一億二〇五九

B 七億六六二九 B/A 36.1%

②  C 一六億八五〇三

D 四億九〇三三 D/C 29.0%

③  E 五億一一一八

④  F 七五四三

⑤  G 六三〇五

⑥  G/C 3.7%

平成七年度(平成七年三月一日から平成八年二月二九日まで)

①  A 二七億三九〇二

B 五億四〇四〇 B/A 19.7%

②  C 二二億九七八九

D 四億二四〇一 D/C 18.4%

③  E 五億八〇九四

④  F 二〇一二

⑤  G 一八五四

⑥  G/C 0.8%

平成八年度(平成八年三月一日から平成九年二月二八日まで)

①  A 三〇億一二八六

B 六億〇〇九七 B/A 19.9%

②  C 二五億〇一一七

D 四億一二二八 D/C 16.4%

③  E 六億六三二三

④  F 四一三〇

⑤  G 三六〇一

⑥  G/C 1.4%

2  右事実によれば、A化粧品の仕入高は、平成三年度から平成五年度まで急激に増加していたのに、同年度をピークに本件不法行為のあった平成六年度以降は一転して漸減していることが明らかであり、その原因は、本件不法行為に起因するA社の出荷停止措置以外には考えられないから、本件不法行為と仕入高の減少による得べかりし利益の喪失との間には相当因果関係があると認められる。

3  そこで、仕入高の減少による得べかりし利益の喪失額を算定する。

平成三年度から平成五年度にかけての仕入高の増加傾向に照らせば、本件不法行為がなかったとすれば、少くとも平成五年度の仕入額は確保できたと推定されるから、同年度の仕入額との差額分についての得べかりし利益を推計することとする。

そして、A化粧品の仕入額に対する経常利益率は、総仕入高経常利益率を下回ることはないと認められる(D/CよりもB/Aの割合が高い故)こと及び総仕入高経常利益率は年度によりかなりのばらつきがある(0.5パーセントから4.7パーセントまで)ことから、本件不法行為前の過去三年間の平均値である2.1パーセント(ちなみに、平成三年度から平成八年度までの平均値は2.05パーセントである。)を採用して推計すると、次のようになる。

平成六年度 1億4651万円(前記五年度のD―六年度のD)×0.021=307万6710円

平成七年度 2億1283万円(前記五年度のD―七年度のD)×0.021=446万9430円

平成八年度 2億2456万円(前記五年度のD―八年度のD)×0.021=471万5760円

合計 一二二六万一九〇〇円

六  結論

以上の次第で、原告らの本訴各請求は、被告都に対する原告甲野の慰謝料五〇〇万円と原告会社の損害賠償一二二六万一九〇〇円及びこれらに対する訴状送達の日の翌日である平成八年三月一六日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し、その余の各請求はいずれも理由がないから棄却する。

(裁判長裁判官高柳輝雄 裁判官足立哲 裁判官中田朋子)

別紙一 平成五年四月〜平成六年三月仕入・利益表<省略>

別紙二 計算式表<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例